東京高等裁判所 平成11年(ネ)989号 判決 1999年9月22日
控訴人(被告) Y
右訴訟代理人弁護士 中城剛志
右補助参加人 Z
被控訴人(原告) 株式会社東京三菱銀行
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 近藤基
同 小野孝男
右訴訟復代理人弁護士 松田竜太
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とし、当審において補助参加によって生じた費用は補助参加人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
第二事案の概要
本件事案の概要は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第二 事案の概要」の記載と同一であるから、これを引用する。
1 原判決三頁三行目の「原告が、」の次に「弁護士である」を加え、四行目の「不渡り」から同行目末尾までを「不渡りとなったため預金として成立しないこととなったのに、被控訴人の機械処理上の不手際により入金取消しの処理が速やかにされないうちに、」に改める。
2 原判決五頁七行目末尾の次に「これにより、本件小切手金一〇〇万円が本件預金口座の元帳に記載され、本件小切手が不渡返還されなければ、同月二〇日午後一時から右小切手金相当額の預金の払戻しが可能となる(甲五、証人B)。」を加える
3 原判決六頁二行目末尾の次に「よって、右小切手の入金による控訴人の預金は成立しなかった(甲五)。」を加える。
4 原判決一〇頁五行目の「このように」の次に「、被控訴人の落度により本件払戻金の払戻しがされたのであるから、被控訴人は、本件不当利得金の返還を求めるについては、控訴人の求めがあればZに事情を説明する義務があるのに」を加える。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所は、被控訴人の請求は、理由があるものと判断する。
その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第三 当裁判所の判断」の記載と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一五頁一行目の「Zは、」の次に「証券会社、信用組合等の金融機関勤務の経験を有し、昭和五七年ころから」を、二行目の「あるところ」の次に「、平成九年二月一八日ころ」を、七行目の「寄託する旨約し」の次に「、被控訴人は、前記第二の二3の約定の下で本件小切手を本件預金口座に受け入れて、その元帳に一〇〇万円の入金の記載をし」をそれぞれ加える。
2 原判決一七頁三行目の「伝えた」から七行目の「考え」までを「伝えたところ、Zから「Cに連絡したら、Cが直ちに一〇〇万円を銀行送金すると言っている。先生が今日八王子の裁判所に行くのであれば、八王子で待っているから、そこで払戻しを受けるなりして、私に一〇〇万円を渡してください。」との連絡があったので」に改める。
3 原判決一八頁二行目の「自分の出先の所持金として三万円を払い戻し」を「三万円を払い戻して口座の残高を確認し」に改め、六行目冒頭から七行目の「充てた(」まで及び九行目の「)。」をいずれも削る。
4 原判決二〇頁六行目の「Dが」の次に「控訴人の法律事務所で」を加える。
5 原判決二一頁六行目の「信用しなかった」を「信用しないとの態度を示した」に改める。
6 原判決二三頁五行目の「、被告に対し不信感を抱くようになり」を削り、六行目の「思う」を「の態度を示す」に改める。
7 原判決二五頁七行目の「被告は」を「小切手金の払戻しが可能となる午後一時丁度に控訴人の本件預金口座から控訴人をして払戻しをさせたZの行動に不自然さを否定することができないけれども、控訴人としては」に改める。
8 原判決二七頁二行目の「により」の次に「本件小切手金一〇〇万円の入金の取消しができず、誤って」を加える。
9 原判決二八頁九行目の「被告は、」の次に「被控訴人の落度により本件払戻金の払戻しがされたのであるから、被控訴人は、その返還を求めるについては、控訴人の求めがあればZに事情を説明すべき義務があるのにこれを怠り、よって」を加える。
10 原判決二九頁一〇行目の「原告と被告との」から末行末尾までを「専ら控訴人と被控訴人との間の普通預金取引に関する法律関係であって、その預金の原資についての控訴人とZとの関係は、本来被控訴人が関知すべきことではないのであるから、被控訴人が本件払戻金の返還の交渉の相手方を専ら控訴人としたことは、この観点からは当然のこと」に改める。
11 原判決三〇頁四行目の「したことは」を「したことも、同様に当然の対応ということができる。もっとも、被控訴人の事務処理上の不手際が原因となって誤って本件払戻金の払戻しがされたことにかんがみると、被控訴人の対応にややかたくなに過ぎたきらいのあることを否定できないというべきである。しかしながら、控訴人とZとの関係について見ると、Cからの振込みがなかったことにつき、弁護士である控訴人の説明を、被控訴人からの説明がないからとの理由で、Cへの確認の手段もとらないで(他にも控訴人の本件預金口座の通帳を見せてもらうという方法もある。)信用しないとするZの対応に問題があるというべきであるし、控訴人としても、Zに対し、右通帳の記載を示し、あるいは被控訴人からの書面を徴してこれを示すなど、Zから論難を受けることのないような対応をする余地があったはずである。これらの事情にかんがみれば、被控訴人の前記のような対応をもって、」に改め、一〇行目の「証人Zは」から三一頁三行目までを「証人Zの証言及び乙一三号証(Zの陳述書)中に被控訴人内幸町支店のE及びFからそのような発言があった旨の証言及び供述記載があり、また、控訴人の本人尋問における供述及び乙一四号証(控訴人の陳述書)中にZからその趣旨を聞いた旨の供述及び供述記載がある。」に改める。
12 原判決三一頁四行目から八行目までを次のように改める。
「 しかし、証人Zの右証言及び供述記載は、甲七号証及び証人Bの証言に照らし、Zに対する債権について免除の意思表示があったとの趣旨においてはとうてい採用することができないものというべく、したがって、控訴人の右供述及び供述記載も、同様に採用することができない。他に右債務免除の意思表示があったことを認めるに足る証拠はない。
もっとも、前示のとおり、被控訴人は、本件返戻金の返還については控訴人のみを交渉の相手方とし、Zとの関係及び控訴人の本件返戻金の使途などについては一切関知しないとの態度をとっていたのであるから、被控訴人の担当者において、Zに対し、本件返戻金の返還を同人に請求するつもりがないとの趣旨を述べた可能性を全く否定することはできない。しかしながら、仮にそのような発言があったとしても、同担当者において、被控訴人のZに対する債権の存在を認識し、又は意識しつつ、これを免除する旨を表明したものとはとうてい解し難いものというべきであり、まして、それが被控訴人の控訴人に対する本件返戻金の返還請求権の消長に影響を及ぼすものとみるべき理由は何ら存しないといわなければならない。」
二 以上によれば、被控訴人の請求は、理由があるから認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は、理由がないから棄却することとする。
(裁判長裁判官 濱崎恭生 裁判官 田中信義 松並重雄)